「復活の日」小松左京(角川文庫 初版:昭和50年10月30日 本書は第11版)
主人公吉住らを載せた原子力潜水艦が浦賀水道に入り潜望鏡から見える、街の光景からこの話は始まる(プロローグ)。白骨化した死体、動物たちの死体、転がっている電車、草の生えた線路、そこは生き物のいない廃墟と化した日本の姿だった。この潜水艦には米国、ソ連、オランダらの乗組員がいるが、すでに彼らの祖国はなかった。全世界、全人類が消えたのである。
表紙の裏に次のような書き出しがある。
人類には明日があるか…。BC(生物化学)兵器として開発された新種の細菌、それはちょっとした偶発事故からでも、人類を死の淵に陥れる
----吹雪の大アルプスで小型機が墜落、黒焦げの乗員と部品や胴体の破片が発見された。この機には、秘密裏に開発された猛毒性を持つMM菌のカプセルを搭載していた。わずか摂氏5度でも気ちがいじみた増殖をはじめ、ハツカネズミが感染後5時間で98%が死滅!MM菌の実験データは冷酷に告げている。
春になり雪どけがはじまると、奇妙な死亡事故が報告されはじめた……。
人類滅亡の日も刻一刻と近づく。著者最高のSF長編小説。
MM菌とは英国陸軍の秘密の細菌研究所で密かに開発していたMM87の実験過程で生まれた変異種で、上記にあるような猛毒性とキチガイじみた増殖率を有する危険なウイルスだった。それが暗闇組織に渡り、その組織がこのMM88を搭載した飛行機で運ぶ途中、アルプス越えに失敗して墜落。2月のことだった。3月、4月になると世界各地で異変が起き始め、野ねずみや羊が大量死。人も原因不明な事故や突然死が相次ぐ。米国でも乳牛がやられ七面鳥がやられ、犬が死に、中国ではアヒルが大量死して、新型ニューカッスル病と呼ばれた。一方、高い感染力と死亡率をもったチベット風邪と呼ばれる不明の新型インフルエンザが大流行。小児麻痺も流行。このMM88は核酸兵器でウイルスの核に入り込み、相乗効果を生み出す。生体に感染している、ありふれたミクソウイルス、つまりはインフルエンザやニューカッスル病等に乗って感染していく。しかも猛毒性でキチガイじみた増殖率で。他のウイルスに入り込むのだから見えない。しかも知られていない。当然である。もとはと言えば米国が宇宙から採取した菌を変異させ密かに培養していた秘密の菌を盗み出し開発していた細菌兵器だからである。
この小説の結末から言えば、全世界のほ乳類が滅び全滅し、生存していたのは極寒の南極基地にいた人間だけ。そこに巨大な地震が発生する予知データが入り、米ソに存在する自動報復措置が稼働する可能性があることが判明。しかもソ連のそれは南極を向いていた。それを知った南極に生存していた4人が死を覚悟してワシントンとモスクワに向かい、そのスイッチをOFFにすることを試みられるが、間一髪間に合わず、互いの中性子爆弾の打ち合いが起こった。もちろん、すでにMM88にやられて人1人いない世界に、である。
だが、南極を発つ前に偶然に中性子を浴びたMM88は変異して、ウイルスを殺し、無害になることが判明。その変異種を注射してでかけたのが主人公吉住であった。
結果的に米ソの中性子爆弾による報復の仕合いは、MM88に中性子を浴びせることになり変異を呼び、収束することになるが、時すでに遅し。世界の人類は南極に残した人以外全滅したのである。偶然にも地下にいて中性子爆弾の被害をかすかに受けただけで生き延びた吉住はワシントンから歩き続けて、南アメリカの南極間近な地点にたどり着くという壮大なSFである。
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